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NEW FRONTIERS IN VIRTUAL

僕らのもう一つの地球

もう一つの地球が作られつつある。デジタル世界と物理世界は混ざり合い、全く新たな体験が実現する世界。そこには経済圏が誕生し、人々が大半の時間を割くようになる。ヒト・モノ・カネが集まり、まるで1つの生態系のように成長を続ける。本マガジンでは「Metaverse」や「Web3.0」と呼ばれる次世代バーチャル世界を探究していく。

Last Updated:
August 30, 2021
Writer:
Takashi Fuke
Researcher:
Tomoaki Kuroko
Designer:
Mathilda
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NEW FRONTIERS IN VIRTUAL

僕らのもう一つの地球

もう一つの地球が作られつつある。デジタル世界と物理世界は混ざり合い、全く新たな体験が実現する世界。そこには経済圏が誕生し、人々が大半の時間を割くようになる。ヒト・モノ・カネが集まり、まるで1つの生態系のように成長を続ける。本マガジンでは「Metaverse」や「Web3.0」と呼ばれる次世代バーチャル世界を探究していく。

Last Updated:
August 30, 2021
Writer:
Takashi Fuke
Researcher:
Tomoaki Kuroko
Designer:
Mathilda

はじめに

本マガジンでは「メタバース」「ミラーワールド」「デジタルツイン」「Web3.0」などの新しいバーチャル概念を特集しています。

Facebookが自社を「メターバース企業」であると明示して以来、「バーチャル世界」と私たちが存在するこの「物理世界」が、いかに交わっていくのかに注目が集まりつつあります。

しかし、未だに想像するのも難しい領域であり、体系化された情報もありません。冒頭で紹介したように、世間ではメタバース以外にミラーワールドやデジタルツインと言ったさまざまな表現も存在し、複雑性を増しています。実はそれぞれに示すものは異なるとはいえ、目指す世界観は同じです。こうした難解に解釈されるバーチャル世界の実態を、多くのユースケースや考察から紐解き、1つに体系化していくのが本マガジンの目的となります。

Chapter 1. デジタルツインの活用

Story 1. アポロ13号から始まった、モノづくり新常識「デジタルツイン」の過去と現在

始まりは些細なミス

1998年に打ち上げられた火星探査機「マーズ・クライメイト・オービター」。大衆の期待を一身に受けて飛び立ちました。しかし10か月後、消息を立ちます。原因は設計段階での単位ミス。

ポンドとメートル単位のすり合わせを行っていなかった単純なコミュニケーション不足によって、国家規模のプロジェクト機を失ってしまいました。損失額は1.25億ドルにも及ぶとのこと。PDF資料、エクセルに代表される2Dドキュメントでのやり取りでは限界があることを示唆する、最たる事例として歴史に残り続けるでしょう。

さて、21世紀、私たちが携わるモノづくりの現場は、過去の大きな失敗を教訓にアップデートを続けています。2020年代以降、特に必要となる特徴が次の5点ほど挙げられます。

  1. 膨大なデータ量を含むデータに多人数が遅延なくアクセスできる「プラットフォーム性」
  2. 世界中の誰もがリアルタイムに制作に関与できる「同期性」
  3. 使い勝手の良い「高いユーザービリティ性」
  4. 3DCADデータを活用して立体的に設計物を確認できるだけでなく、AIによってバーチャル空間で実際にモノを動かしてみる「AIシミュレーション性」
  5. バーチャル世界での成果を即座に物理世界に反映する「リフレクション性」

モノづくりの世界では、上記5つの要素を含めた概念を「デジタルツイン」と称されています。物理世界の物体をそっくりそのままバーチャル世界で再現し、未来に起こるであろう事象を事前に検証。あらゆるリスクや可能性を擬似体験した上で、その結果を物理世界の製作・製造に反映する一連の考えを指します。

デジタルツインは、XR文脈で最も注目されているとも言えるでしょう。

元祖デジタルツイン

Image Credit by NASA

「デジタルツイン」という言葉は、2002年にNASAのJohn Vickers氏によって提唱されたという説があります。この概念提唱に至るきっかけとなったのが、アポロ計画でした。

冒頭で説明したように、NASAは90年代後半に大きな設計ミスを行っていますが、70年代にもアポロ13号で失敗を犯しています。整備士がたった1本のネジを閉め忘れたことから、酸素タンクが爆発し、少ない酸素濃度、電力、水で月から地球に帰還せざるを得なかった事態が発生してしまいました。

ただこの時は、NASAが地上で13号に似せたレプリカを迅速に作成し、お手製のレプリカを用いて帰還までの状況を高速でシミュレーション、的確な指示を出すことで事を納めました。

現場で発生する未来の状況をレプリカを通じて再現し、リスク判断や指示出しを行う「元祖デジタルツイン」とも呼べる事例が、アポロ13号の事件で起きていたのです。当時はインターネット創成期でサーバーも強くなく、多人数が同期的にデータへアクセスできる環境もありませんでした。全てマニュアルでシミュレーションから現場への反映までを行っていました。

そして現代、AWSを筆頭とする巨大サーバー施設の登場、高速インターネット社会の到来、AIの目まぐるしい発展によるビッグデータ解析により、誰もが手軽にバーチャル・レプリカを作成し、仮想空間上で予測シミュレーションをネット環境下で世界規模で行えるようになりつつあります。当時のアポロ担当者が求めていた、“真のデジタルツイン環境”がすぐ手元にまで来ています。この動向が顕著に反映されつつあるのがハードウェア、モノづくり領域です。

待たれる、次世代ハードウェア版Github

Image Credit by Wikifactory

コロナ禍、現場に立てなくなった世界中のハードウェア・エンジニアから、デジタルツインツールを求める声が著しく増えました。インターネット上で製図データ確認や、性能を全てシミュレーションし、最後の製造する段階だけを物理世界で行うプロセスが必要となった形です。

そこで登場したのが「Wikifactory」。同社は「ハードウェア版Github」を謳っており、何かしらのハードウェアを制作する際、3DCADデータ上にコメントを残したり、細かいバージョン管理が可能となっています。エンジニア同士が遠隔地にいる場合を想定した、コラボレーションツールとなっています。

同じく「ハードウェア版Github」を謳い、衛星や車両、工事機械の製造を得意とする「Valispace」も登場。あらゆるモノづくりの分野で、ソースコード管理のアプローチが採用されつつあります。

しかしながら、これだけでは従来現場感で行っていた製造コミュニケーションをバーチャルに置き換えただけ。確かにソフトウェアによって現場のやり取りをオンライン化したり、保存できるようになっただけでも高い提供価値を持ちますが、それだけではNASAの失敗事例にあったような重大な事故を引き起こしてしまうなどの将来リスクを排除できない課題が残ったままです。

そのため、WikifactoryやValispaceなどのサービスに次に実装される機能として、作成データを実際にその場で動かし、バーチャル空間でトレーニングさせたり、特定シチュエーションでどのような動作・反応をするのかをシミュレーションする機能が挙げられるでしょう。ハードウェア製造に関する大半の作業をバーチャル空間だけで行う体験が求められると考えます。

モノづくりはどう変わる?

Image Credit by Kelly Sikkema

ハードウェアSaaS領域の“次の領域”として期待されるのは、AIによる事前予測を活かしたシミュレーション性であることを述べましたが、この機能は私たちが望む未来の前提に過ぎません。

冒頭で紹介した、「プラットフォーム」「同期」「ユーザービリティ」「AIシミュレーション」「リフレクション」、5つの要素を含んだ未来の到来が待たれます。たとえば次のような未来シナリオです。

「CADデータの扱いや、複雑なソフトフェアの操作方法を知らない、小学生や中学生の若い人。彼らは何かしらの障害を持っていてインターネット端末へアクセスできない人たちがモノを作りたいと考えている。声や指先の動作だけでバーチャル上に仮想的に構造物を制作し、実際に仮想世界で操作できるようなサービスが普及した未来。そのサービス空間では、複数人のユーザーがリアルタイムに参加でき、一切の遅延もなく、ダイナミックな制作が可能。バーチャル世界の完成物は、物理世界に反映される。」

ちょっとした工作からDIY、宇宙船や工業機械製造に至るまで、あらゆる分野がデジタルツインの概念によって高速かつ正確にモノづくられる世界の実現。この未来の機運はすでにVRサービス等で感じられます。

私たちは未来シナリオで述べた、「デジタルツインな未来」の到来をすでに体験しています。

実際、Googleが開発したVRスケッチサービス「Tilt Brush」では、直感的に3D作品の創作を可能としました。クリック動作に代わる、直感的な空間タッチ動作だけで、素晴らしいアート作品を描写できます。長らく破られてこなかった「マウス」と「キーボード」のインタフェースを垣間見ることができます。何よりVRスケッチのUIは、年代や国籍、言語を問わず操作できます。この点はシナリオの起点ともなり得ます。

また、同じくVRサービスの「Arkio」においては、建造物や都市開発の設計を多人数で体験できます。ビルや都市景観物をVR空間上で自由に複製、あっという間にユーザーが描く都市空間を構築できるサービス。

多人数でワールドに入り、さまざまな角度・縮尺から確認してフィードバックできるコラボレーション・プラットフォームでもあります。こうしたバーチャル構築物から物理世界の未来像をシミュレーションする体験は、高いユーザービリティ性をもとにすでに実現されています。あとはAIにより、バーチャル都市にどのような災害リスクがあったり、人口が増えるとどのような交通障害が発生するかなどを事前予測できれば、物理世界にリスクヘッジ情報を返すことができるようになり、立派なデジタルツイン・サービスとして確立できます。

次世代グラス時代には、ここまで紹介したVRサービスのアプローチをもとに、よりシームレスに自宅やオフィスでのモノづくり体験がアップデートされると考えられます。

たとえば「ClipDrop」が開発するサービスのように、物理世界に存在する物体をコピーアンドペーストする感覚でバーチャル世界に反映。3D CADデータを0から作る必要もなく、既存の物体データをベースに新しいモノを作り上げる体験が可能に。バーチャルデータが用意できれば、VR空間でも、MRグラス越しに見える物理世界のどちらにおいても、AIシミュレーションから物理世界のフィードバックを含んだサービスが登場すると考えています。

モノづくりの敷居は圧倒的に下がり、誰もが触れられるものに。一方、AIを活用することで、より一層高度なユースケースを検証することもできるように。

未来シナリオにおいて、モノづくりは複雑化・多機能化するのではなく、よりシンプルなもので使いやすい方向性へ向かうでしょう。その全ての土台となすのがデジタルツインの概念であり、宇宙開発の失敗を通じて私たちが獲得した教訓の上に立っています。

Story 2. 面倒なプレゼンは「デジタル人類」にお任せ、Rephrase.aiが示す働き方

「自動生産」の兆し

この1年でZoomでの会議が増えましたが、「果たして動きのない自分の顔をカメラに映し続ける意味はあるのか」、と疑問に思った人も少なくないはず。

たしかに会議に出席している“感”や、チームとしての“グルーヴ感”を出すに顔出しは必要でしょう。今日から会社のメンバーが全員顔を出さなくなったらもちろん困ります。しかし、これから5-10年先にも同じように、当事者がカメラの前に座り続ける習慣が存在しているのかは甚だ疑問に感じます。

こう感じたきっかけとして、非同期に動画メッセージを残せるサービス「Loom」を多用する機会に恵まれたことが挙げられます。

何人ものメンバーに会議室に集まってもらうにも関わらず、その場で資料と全く同じ内容を話すのは時間の無駄になってしまうことがあります。そこで、動画メッセージを事前に共有して、プレゼンを会議前に視聴してもらっていた方が、いきなり質疑応答に入れるため、会議時間を最大限有効活用できることが多いです。

動画メッセージ体験はこれから到来する「自動生産社会」の始まりを象徴しています。ゆくゆくは動画メッセージを送るのも、Zoomのカメラに映るのも、全て自分のレプリカ「デジタル人類」となっていくでしょう。

ここからは生産性文脈で登場しつつある、デジタル人類を具体化したサービスを紹介します。

営業プレゼンはAIにお任せ、「Rephrase.ai」の事例

インドを拠点とするスタートアップ「Rephrase.ai」。2019年のTechstars Bangaloreプログラムに参加しており、その後Lightspeed Venture PartnersとAV8 Venturesがリードするシードラウンドで150万ドルの調達を発表しています。同社はセールスメールの自動化に努めています。

Rephrase.aiを使えば、テキスト情報だけでAIが勝手にセールストークをしてくれている動画を作成できます。メールに貼り付ければ、動画を活用した立派なセールスメールが完成。使い方は至ってシンプルです。実際の人間そっくりのアバター画像と音声を選択、あとはピッチして欲しいテキスト情報を入力するだけ。アバターが入力テキストに沿ってプレゼンをした動画データが出力されます。

動画があれば、より深く情報を伝えることができるため、従来の淡白なメールのやりとりをアップデートすることができます。TechCrunchの取材によれば、開封率も向上するとのこと。また、同記事ではRephrase.aiの技術面にも触れられています。曰く、実際のスタジオで(任意のフレーズを言っている)人物を10分間撮影した場合、その人物の唇の動きがどのようになるかを予測することができる技術を保有しているとのことです。

これら技術は「ディープフェイク」の分野に括られます。自分の代わりに何かしらの情報発信をしてくれるアバターを生成し、それらにタスクをこなしてもらうことができる未来は、すでに実装されつつあります。

続々と作られる、デジタル人類・ライブラリー

アバターと動画の相性はとても良い印象です。別の事例として「Synthesia」を挙げます。同社はAI動画生成プラットフォームを開発しており、2021年4月、First MarkがリードするシリーズAラウンドにて1,250万ドルを調達したと発表。

40以上の言語に対応した、AIアバターを活用したプレゼン動画をアウトプットします。まずは企業向けの教育コンテンツ市場をターゲットとしている模様。たとえば従業員のトレーニング動画や、会社や部門全体のビデオアップデートなどを手軽に行えるようにしています。

使い方はRephrase.aiと似ており、Synthesiaの提供するライブラリーの中から、好きなアクターを選択。もし自分の動画を使いたければ、手順に沿って素材データをアップロードして使えるようになります。次にテキストを入力すれば、あとはアバターがその内容に沿ってプレゼンをしている動画が完成します。ちなみにアバター元となるアクターは、自分が出演した作品ベースで報酬が発生するとのこと。

こちらの記事によると、Synthesiaの今後の活用法として、毎日(もしくは毎週)届くチームの全体メッセージに上司のアバターが動画で説明するユースケースが記されています。テキスト・メールのようなドライなコミュニケーションではなく、より立体的かつリッチな表現でチームメンバーに現在のプロジェクト進捗を伝えられるといいます。また、特定の株価・銘柄を指定しておき、日々のマーケット相場をAIアバターにしゃべらせた動画をスマホの電話番号に送るといった、APIベースの取り組みにも着手しているとのこと。

こうしたデジタルクローン技術を持つスタートアップは世界的に多数登場してきています。

ポッドキャスト編集ツール「Descript」は、AI合成音声による自動読み上げ機能「Overdub」をリリース。ライブラリーにあるアクターの音声や、自分の音声を使ってテキストをそれっぽく読み上げてくれます。ポッドキャスト音声コンテンツの量産を可能としています。同じく音声クローン領域では、「Resemble.ai」や、「Resepeecher」も活躍。

他にも周辺技術として、ユーザーの表情を読み取ることで3Dアバターの表情をリアルタイムに反映する技術を持つ、Epic Gamesに買収された「Hyprsense」や、カメラで取得した情報をリアルタイムでアニメーション化するAdobeが開発するアバターアニメーターなども挙げられます。

AIアバターやデジタルヒューマン系のサービスは、私たちの実際の話し方や表情データに基づいた研究の賜物。その上で、徐々に私たちは1人につき1人の割合で、自身のAIアバターを作りつつあります。形はゲームキャラクターから、実際の自分の体型・顔に寄せたものまで様々ありますが、無数の「デジタル人類」とも呼べるデータ像がインターネット空間に作られ続けています。

アバターが、僕らの「時間」を拡張する

Image Credit:Morgan Housel

ここまで紹介してきたアバターや合成技術は、私たちの時間を最大化させる大きなメリットを持ちます。

1人では到底時間の足りない作業を、AIアバターを駆使することで多動的にこなすことができるでしょう。自分1人では1日8時間の事業プレゼンしかできない場合でも、アバターを使えば2倍・3倍のプレゼン数を勝手にこなせているといったことも可能。多言語化すれば、さらにその数倍以上の場数をこなせるかもしれません。

まさに私たちの分身を作り出し、24時間という誰もに科された時間の制約を取り払うことができます。「時間の拡張」を行えるとも言えます。

私たち人類の代わりに、デジタル人類と接する時間が増えれば、現在のデジタルインターフェースも変わるに違いないはず。1日の大半をアバターとコミュニケーションを気楽に取れる、プロジェクション技術や、グラス端末の活用が注目されるはずです。

デスクトップやスマホ上に映し出されるアバターのプレゼン動画を観るという体験では終わらず、ARグラス端末やVRヘッドセットを通じたデジタル空間を介して、当人と会話をするかのようにアバターとやり取りする、まさに本物の人間と触れているようなコミュニケーション体験が求められると考えられます。

自分の知性・知能がインストールされたAIアバターが会議ディスカッションに参加してきてくれて、その場で交わされた内容は後ほど議事録としてサマリーを共有する。最終的な意思決定は物理世界に住むユーザーが下すといったフローが1つ考えられるかもしれません。

いずれによせ、世界はゆっくりとですが、デジタル人類にタスクを消化してもらう動きになりつつあります。それに連れてデジタル情報そのものとやり取りをするインターフェースへと進化することでしょう。その中でAR・VR端末は広く使われていく重要な要素となるはずです。

Chapter 2. スタートアップが参入する「メタバース」

STORY 3. 『Fortnite』だけでは語れない。280億ドル超の価値「Epic Games」を作り出す16の企業

大人気アクション・バトルロワイヤルゲーム『Fortnite』。

バトルゲームと銘打たれていますが、今や映画や音楽のプロモーションイベントを大々的に開催する場所にもなってきました。たとえば2020年4月、人気ラッパーTravis Scott氏が巨大なアバターとなり、Fortnite世界をライブ会場に一転させました。同時参加者数は1,230万人に上り、Fortnite史上最高の記録となりました。4月末時点では2770万ユーザーが参加し、4,580万回の参加を生み出しています。

その広大な世界観と膨大なユーザー数を理由に、Fortniteは「Metaverse」の代名詞として認知されつつあります。ユーザー自身が様々な娯楽・生活コンテンツを生み出し、バーチャルオブジェクトを交換する経済が生まれ、ユーザー同士がリアルタイムにコミュニケーションが取れる、一つの巨大な仮想世界になるのではと市場で言われています。

Fortniteのユーザー数は2017年の夏から鰻登り。「statista」のデータによると、2020年5月時点で登録ユーザー数は3.5億に上り、もはや一つの国家が誕生していると言って良いでしょう。

Fortniteを開発したのは米国ノースカロライナ州に拠点を持つ「Epic Games」。1991年創業、Fortnite以外に、『Unreal』『Gears of War』『Shadow Complex』『Infinity Blade』を手掛けます。2018年には150億ドルの評価額で12億5,000万ドルを調達、2020年8月には173億ドルの評価額で17.8億ドルの調達に動きました。2021年には287億ドル評価で10億ドルの追加調達に成功しています。

2012年、Tencentが3億3,000万ドルを投じてEpic Gamesの40%相当の株式を取得してから、チャイナマネーを糧に急成長を遂げてきた背景が挙げられます。Tencentは「Paradox」「Activision Blizzard」「Ubisoft」各社の5%、「Frontier Developments」の9%株式を所有し、大阪に開発スタジオを持つ「PlatiumGames」へも出資する中国ゲーム業界の長。中国市場ネットワークとゲームディベロッパー企業を結びつけています。

Epic Gamesは巨額の資金を投じて市場から支援を受けており、Fortniteは株主の期待をそのまま体現させたゲームと言えるでしょう。ただ、ここまでの功績が全てEpic Games社単独の力で構築されているわけではありません。いくつかの買収を繰り返して非連続的な成長が遂げられます。

本記事ではEpic Gamesの買収企業16社を見ながら、同社の未来を紐解いていこうと思います。

ソーシャルコミュニケーションの礎「Houseparty」「Sketchfab」「ArtStation」

Image Credit:Mika Baumeister


2019年6月、Epic Gamesは若者向け動画コミュニケーションプラットフォーム「Houseparty」を買収しました。

2015年に創業されたHousepartyは、動画チャット配信を軸とするソーシャルネットワーク。Fortniteと同様に若い世代から人気を得ています。2020年4月時点では、パンデミックの影響で在宅時間が増えたこともあり、5,000万登録ユーザーを1カ月記録し、驚異的な成長を見せていました

10代のユーザーをターゲットにしており、プライベートで安全なコミュニケーション空間を提供。最大同時接続人数は8名まで。Fortniteの遊び方として、小人数グループで活動することが基本となっているため、Epic GamesはHousepartyのグループユーザー層をFortniteへとシームレスに移行させたいのだと考えられます。

Housepartyの特徴は「共同体験」です。

アプリを開くと友人同士でトリビアクイズができたり、一緒に遊び・話題が尽きないような工夫がされています。友人間コミュニケーションを円滑に進ませる共同体験は、ソーシャルには欠かせない要素でしょう。若者世代の友達同士の動画チャットプラットフォームとしてのベースを築いていたHousepartyにとって、世界的ゲームを共同体験コンテンツの1つとして利用できることほど強力なことはありません。Epic Gamesにしても、Housepartyが囲っていたユーザーベースと、コミュニケーションプラットフォームの仕組みを将来的に連携できるメリットは非常に大きい印象です。

Image Credit:Sketchfab

さて、Housepartyはいわゆるゲームを「遊ぶ側」のソーシャルサービスでしたが、ゲームコンテンツを「制作する側」のコミュニティ形成にもEpic Gamesは力を入れています。

2021年7月には3Dモデル共有プラットフォーム「Sketchfab」の買収に動きました。同プラットフォーム上では3Dモデルの売買が行われており、3Dモデル作品のマーケットプレイスおよびクリエイターコミュニティーとの連携性も高めています。加えて同年4月、3Dクリエイターたちが作品を発表し合うコミュニティー・サービス「ArtStation」を買収。同社はマーケット要素は弱く、作品発表の場となっている純粋なコミュニティーサービスを運営しています。このように、ゲームに関わるあらゆる人が繋がりあい、経済圏としての発展性も持つエコシステム像を描いているのがEpic Gamesと言えます。


次世代ゲームの鍵を握るデジタルヒューマン「3Lateral」「Cubic Motion」「Hyprsense」

Image Credit:Drew Graham​​

Epic Gamesはゲームタイトルだけでなく、3D制作プラットフォーム「Unreal Engine」も開発します。

バーチャルだとは思えないほどの完成度は、Unreal Engine の特徴であるダイナミックレンダリングによってもたらされています。開発者は数百万のポリゴンを持つオブジェクトを投入し、Unreal Engineを使ってオブジェクトに対して複雑な動作を指示したり、画面上でストレスなくレンダリング表示できます。

Unreal Engine上に乗っかってくる重要な技術の1つがデジタルヒューマンでしょう。近年は本技術によってゲームキャラクターが本物の人間のような完成度で動き回るようになりました。デジタルヒューマンの開発は世界的に加速し続けている印象で、Epic Gamesは市場リーダーの座を担いたい考えだと思われます。

事実、2019年1月にはコンピュータ生成による人間キャラクター・デザインを開発するゲームスタジオ「3Lateral」、2020年3月にはフェイシャル・アニメーション技術を開発する「Cubic Motion」、2020年11月にはCubic Motion同様の技術を持つ「Hyprsense」を買収しています。冒頭で述べたMetaverseを構築するためには、よりリアルな表現が求められます。3Lateral・Cubic Motion・Hyprsenseが実現するのがまさにこの点です。

Epic Gamesが開発を進めるデジタルヒューマンに「Siren」が挙げられます。Siren自体は買収前から開発が進められていました。


Sirenは実際の女優の動きや発言をUnreal Engine上のリアルタイム・モーションキャプチャー技術を使って再現されています。現実世界の人物情報をそのままデジタル世界に転送する「デジタルクローン」の確立を目の当たりにできます(動画参照)。

「Epic Gamesは何年も前からデジタルクローン開発へと動いてきた」とCEOのTim Sweeney氏は述べていました。ただ、表情や肌、髪の毛のディテールなどの再現が不完全で、「不気味の谷」を越えるにはまだかなりの道のりがかかるとも踏んでいました。そこで出資元のTencentおよび3LateralとCubic Motionと手を組んで、デジタルヒューマン技術開発と動いてきました。現在はこのチームにHyprsenseも合流しています。

2015-16年時点では、女性の顔に生えている小さな毛などの微細な表現はレンダリングできませんでしたが、GPUの高速化によってこの点も克服。動画に登場する女性の耳や鼻には30万本の小さな毛が生えています。他にも、女性の顔に照らし出される光を眼窩に反映させるスクリーン空間放射や、肌のシェーディングに2層の鏡面反射が使われていたりしています。

Epic Games・3Lateral・Cubic Motion・Hyprsense・Tencentの5社を軸に開発が進められるデジタルヒューマン。物理世界の私たちの動きをほぼリアルタイムに転送できるとすれば、それは新たな「地球」をデジタル世界に誕生させられる可能性を秘めると言えるかもしれません。

デジタルヒューマンはゲーム世界やVRのような市場だけでなく、拡張現実であるARにも応用が効く技術。物理世界とデジタル世界の境界を無くす、ある種の「繋ぎ役」としての存在になるはずです。私たちは次の“地球”を作り出すコア技術の発展とユースケース普及を、Epic Gamesに見ていると言っても過言ではないでしょう。


超リアルな世界を目指して「Quixel」「Twinmotion」「Capturing Reality」

リアリティー要素を強化しているのは、デジタルヒューマンだけではありません。そのほかのバーチャルオブジェクトも本物そっくりに映るようにしています。

2019年11月、Epic Gamesは様々な角度から撮影した被写体データを3Dに落とし込むフォトグラメトリー技術に関するアセットライブラリーを保有する「Quixel」を買収。同社はUnreal Engineを使った短編映画『Rebird』を発表しており、まるで本物の世界かのような映像美は市場から高い評価を受けています。

本買収を通じて、Epic GamesはUnreal Engineを使用している人なら誰でも、無料でQuixelのバンドルツールおよび豊富なライブラリ「Megascans」、マテリアル制作ツール「Mixer」、アセット連携ツール「Bridge」を利用できるようにしました。超高解像度のスキャンを通じて、誰もが世界をより身近に感じられるようになりました。

Quixelの流れを汲む形で2021年3月に買収をしたのが、「Capturing Reality」。両社の技術をベースに、さらなる立体的なゲーム空間を再現したり、現実のオブジェクトを手軽にデジタルへと転換できるようになるでしょう。

2019年5月には「Twinmotion」も買収しています。同社は建築家や造園専門家が3Dモデルをリアルタイムで微調整し、高品質のデータとしてアプットプットできるソフトウェアを提供。デザイナーは気象効果をその場で追加したり、VR作品を編集したりすることもできます。


Fortniteでは建築がコアユースケースとなってくることもあり、よりリアルに建築物を見せることがゲーム世界の発展には不可欠。Unreal Engineの機能強化にも繋がり、Epic Games傘下のゲームタイトルは軒並みリアリティー度を大きく増すはずです。


ハードウェアの壁を超える「Cloudgine」「Agog Labs」「Rad Game Tools」

Image Credit:Erik Mclean​​

ビデオゲームでの体験は、常にゲームハードウェアのスペックとの戦いとも言えるでしょう。PC・コンソール・モバイルのグラフィック処理能力が低ければ、膨大なデータ量が正常に処理することができず、ゲーム体験性に大きく関わります。

「Cloudgine」は世界中のデータセンターを活用して、高い計算能力が必要なゲーム処理に対してクラウドコンピューティング技術を適用。利用デバイスの能力を何倍も飛躍させました。複雑な計算処理をサーバーネットワークを通じて解消。分散型クラウドコンピューティングサービスとしてゲーム開発者がより創造的なタイトルを開発できる基盤を作りました。

Epic Gamesはデジタルヒューマンを高精度に作り出す技術だけでなく、Unreal Engineを問題なくユーザーに届ける必要も負っています。せっかくクオリティーの高い世界観を実現できたとしても、ハイスペックなPCを持っているユーザーしか利用できないとなると、急速に市場パイが縮小してしまいます。そこで2018年1月にCloudgineが買収されたと考えられます

Image Credit:Alex Haney​​

さらに、2019年1月にスクリプトツールメーカー「Agog Labs」を買収。最小限のコード行数で同時実行なゲーム向けスクリプトツールを提供していました。高速処理するためのコーディング技術の強化も怠ってはいません。

Epic Gamesはコーディック技術にも目を向けています。映像処理技術が進むにつれて、膨大な量のゲームデータをリアルタイムに読み込み・出力する必要も出てきます。ここで大きな市場シェアを獲得していたのがゲーム向けビデオ・コーディック「Blink」を開発する「Rad Game Tools」でした。データの圧縮・変換・復元までの一連のプロセスを担うのがコーディックであり、同社ツールは1.5万以上のゲームタイトルに採用されているといいます。Epic Gamesは2021年1月に買収をし、Rad Game Toolsが保有する技術をUnreal Engineへと連携させる動きを見せています。

Metaverseを扱うには、ユーザー同士が平等に評価され、差別のない世界を目指さなければなりません。なかでも端末スペックによって優越が付けられるのがゲーム業界でよくあることですが、こうした差を埋めるための技術の1つがCloudgineやAgog Labsの技術だと言えるかもしれません。物理世界の金銭的およびネットワーク環境の足かせが極力働かないフラットな世界を創り出そうとしているのがEpic Gamesと言えます。


セキュアな環境を目指して「SuperAwesome」「Kamu」

Image Credit:SuperAwesome

HousepartyにしろFortniteにしろ、Epic Gamesが扱うサービスの大半がティーン向け。比較的若年層をユーザーとして扱う場合、米国における子供向けオンラインプライバシー保護法(COPPA)を筆頭に、さまざまな情報匿名性やプライバシーに配慮する必要が出てきます。もちろんコンテンツ面においてもセンシティブなものを配信することは憚れます。

こうした市場課題を解決する、子供向けデジタルコンテンツの最適化を行うサービスに「SuperAwesome」が挙げられます。デジタル広告を出稿する際、子供向けに選ばれた商品しか表示しないように企業は対応を迫られますが、全てのプラットフォームがすぐに基準に準拠した仕組みを構築できるわけではありません。そこでSuperAwesomeを経由することで、若い世代のユーザーにも安心してコンテンツ提供できるデジタル環境を提供できます。

2020年9月、Epic GamesはSuperAwesomeを買収。同社技術を活用することで、将来的にはティーンユーザーが目にするゲーム内コンテンツや広告を制御したりと、若者にとって最適なゲーム環境を実現する動きに出ることでしょう。


Image Credit:Kamu

巨額の調達資金を元手に人気タイトルを買収したEpic Gamesですが、人気タイトルを複数扱い、巨大なユーザー層を抱えるとなるとユーザー管理も重要となってきます。

チートを使って強い武器を手にしたり、レベルを上げることで他ユーザーより優位に立とうとする人は必ず出てきます。よりリアルな世界を求めているEpic Gamesにとって、簡単に他ユーザーより優位に立てる世界観は、相手を単純な方法で蹴落とせる意識を拡散させ、コミュニティ運営上問題となるでしょう。

そこで2018年10月に買収したのが「Kamu」。アンチ・チートサービスを提供するゲームセキュリティ企業です。80以上のゲームを保護しており、世界中で1億人以上のPCプレイヤーにインストールされています。サービス提供価値とてして、アンチ・チートには留まらず、プレイヤー満足度・コミュニティ構築・ゲームセキュリティ・遠隔測定・ゲーム管理まで、一貫したユーザー管理に重点を置いています。

新たなゲームタイトルを買収しつつ、市場を拡大し続けているEpic Gamesにとって、ユーザーの幸福度は大事な問題。Housepartyのようなコミュニケーションツールと高いゲームセキュリティシステムとを両立させることで、対等に楽しめるエコシステム確立を目指しています。


一大ゲーム会社へ「Psyonix」「Tonic Games Group」

Image Credit:Rocket League

競合からのゲームタイトル引き抜きもおこなっています。2019年5月には、車を操作しながらサッカーができる大人気マルチプレイングゲーム『Rocket League』を開発する「Psyonix」を買収。

Rocket Leagueは5,700万ユーザーが遊ぶ大人気作。買収後はEpicの競合に当たる「Valve」が運営するゲーム配信プラットフォーム「Steam」での配信が停止され、Epic Games Storeでの配信がされています。

ただし、Epic Gamesのこうした独占的な動きはユーザーからあまり好感を得られていません。依然としてSteam側ソフトのサポートは続いているようですが、新規ユーザーからすれば利用プラットフォームの選択肢が狭まったのは事実。また、Epic Gamesの背後には中国企業大手のTencentが構えており、昨今の米中政争の煽りも受けて気持ちよく思わない人も多くいます。Appleの独占的なプラットフォーム利用に声を上げたEpic Gamesが、皮肉にも全く同じような動き方をしていることで批判を受けています。

さておき、2021年3月に『Fall Guys』を開発した「Mediatonic」を有するゲームグループ企業「Tonic Games Group」も発表しています。日本でも大人気のタイトルを傘下に収めることになりました。Tonic Games Groupは、「Mediatonic」「Fortitude Games」「The Irregular Corporation」の3社によって成り立つ新興企業。Epic Gamesは同3社のリソースを全て傘下にしたと言っても過言ではありません。

Epic Gamesの先

Image Credit:Joshua Hoehne​​


買収企業を通じたEpic Gamesが提供するゲーム世界は、確実に冒頭で述べたMetaverseの様相を呈し始めています。

たとえば、誰もがクリエイターになり創造的な活動ができる流れが生まれています。YouTuberのMakaMakesは、Fortnite上に多くの巨大な建造物を構築し、公開してきました。よりリアルな建築物を作り出せる技術は、ここまで見てきた買収企業のサービスに基づいていることはもはや言うまでもないでしょう。Fortnite上で様々に試行を凝らした空間を遊ぶことができるようになりました。

個人のクリエイターを支援する流れは私たちがいる物理世界でも起きています。ギグワーカーやフリーランスの台頭はまさに代表的な動きでしょう。同様に、Epic Gamesが開発を進めるUnreal Engineの機能実装および完成度が上がるたびに、こうした個が活躍できる場が増えるはずです。

任天堂『どうぶつの森』で人気キャラクターが高値でメルカリで販売されています。Fortnite上でもバーチャルオブジェクトを売買する流れが加速し、国家規模の経済圏が将来的に生まれることは想像に難くありません。

Travis Scott氏の事例を見れば、多額のお金を稼ぐことだってできるようになります。自分だけの特技や芸を見せ、投げ銭機能を使って売上を立てる循環経済の誕生も、人気ライブ動画アプリ「SHOWROOM」のような機能セットを見ていれば十分に考えられます。

また、著名ゲームタイトルを買収することで、多様な個性や見た目を持ったキャラクターが1つの世界観に集う動きも見られるでしょう。従来、タイトル別にゲーム世界が別れていたことから別タイトルの世界と交流接点もなく、遊び方も異なっていたゲーム市場の常識を、Epic Gamesは打ち崩そうとしているとも考えられます。実際、Fortnite上ではさまざまなキャラクター・コラボレーションが発生しており、新たなスキンが続々と導入されています。

私たちはリアルタイムに世界中のユーザーと、あたかもその場にいるかのような立体感を伴ってバーチャル世界で生活する未来の始まりを見ていると言われても不思議ではないでしょう。Epic Gamesが目指すのは、こうしたリアルタイムでやり取りされ、圧倒的な現実感を持ち、経済が確立した新たな生態系だと言えます。

Chapter 3. NFTが加速させるバーチャル経済圏(仮)

※ 今後ストーリー記事が追加されていきます。

Chapter 4. バーチャル世界でファッションはどうなる?(仮)

※ 今後ストーリー記事が追加されていきます。

Chapter 5. 「Virtual Economy」とは(仮)

※ 今後ストーリー記事が追加されていきます。