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金属に“聴く” ー 「3D Signals」が示す超予測社会の到来

Last Updated:
Aug 3, 2021

デジタルツイン101

「デジタルツイン」という言葉をご存知でしょうか?

物理世界とデジタル世界がリアルタイムにやり取りされ、仮想世界上でシミュレーション。ユーザーが求める環境設定にするためになにかしらのアクションが必要な場合、デジタル世界の決定が物理世界に直接反映される、物理世界とデジタル世界が融合される考えがデジタルツインです。

一番わかりやすい例が、皆さんの自宅にもあるエアコンです。Google Nestなどまさにそれに当たります。たとえばユーザーが25度まで部屋を冷やすように温度設定をした場合、エアコンがリアルタイムに室温をモニタリング。機械側で室温が25度になったと(シミュレーション)判断すると、自動で停止するように物理世界のエアコンの設定を変えます。

デジタルツインの仕組みが広がると、私たちは専門知識や機械の使い方を学習せずとも、どんな環境にしたいのかを設定するだけで仕事ができるようになります。クリエイティブな意思決定のみに特化でき、煩わしいプロセスは全てAIや機械が担ってくれる、「真のデジタル世界」が実現されます。

製造現場で広がる「プラント・デジタルツイン化」

Image Credit by 3D Signals

さて、デジタルツインへの注目度は年々増しています。コロナの影響もあり、たとえば遠隔からでも工場のオペレーションを安全に維持・操作する需要が高まっています。こうした工場のデジタルツイン化を「プラント・デジタルツイン」と本記事では呼びます。

工場のデジタルツイン化において、とりわけ機械の故障予測に対するニーズが多くあります。世界中の工場に存在する6,000万台以上の機械のうち、90%ほどがIoT化されていないのが現状だと言われています。また、70%以上が15年以上も長く使われている機械とのこと。アップデートするには多大なコストがかかり、人力で修理するオペレーションを要されているのが現実。エアコン(Google Nest)のように、誰もが遠隔から手軽に操作できるフローにたどり着くのは至難と言えます。

機械のコンディションをデジタルツインに基づいて予測するには各マシーンをIoT化させ、リアルタイムにデータ収集できる動線を確保しなければなりません。現場で何が起こっているのかを細かく知る必要があります。

そこで活躍しているのが「3D Signals」です。同社は最大100キロヘルツ(人間の聴力範囲は20キロヘルツまで)までの音を検出できる超音波マイクロフォンを開発。機械音の違和感をAIが検知し、実際に機械の摩擦・ずれ・フィルタの詰まり・潤滑不足などの故障を事前予測するサービスを提供しています。ユーザーは解析結果をいつでもスマホやタブレット端末から確認できます。人間の到達できない、機械だからこそできる超予測を実現しています。

3D Signalsの強みは導入コストの安さです。市場に出回っている既製品の故障音を教師データとしてアルゴリズムを構築しているため、一般的な工場であれば即日稼働させることができます。

「工場の完全自動運転」と「国土デジタルツイン」

Image Credit by Jezael Melgoza

同社が目指すのは完全自律型の工場運営です。残念ながら、現在のサービス範囲では故障をした際には誰かが人力で修理する必要がありますが、近い将来この修理プロセスもロボットが担当することになるでしょう。

工場の運用・管理(検知)・故障対応まで全てがAIとロボット、各旧型機械によって成立することになります。人間は管理者であり、経営を担うマネージャー層以上しか必要としなくなり、専門の技術を必要とせずとも生産活動ができるようになります。冒頭で説明したデジタルツインの概念をさらに拡張し、物理世界とデジタル世界の架け橋としてロボットが機能し、完全自動化が実現した世界。こうした「プラントデジタルツイン」の世界観を目指しているのが3D Signalsです。

完全自動化された製造現場が増えれば、いよいよ製造業は「ブルーカラー」から「ホワイトカラー色」へと一変します。ユーザーはAIの助けを借りながら、意思決定の議論にのみ限りなく集中できるでしょう。世界的に賃金・給与も見直される動きも出てくるかもしれません。

このように、私たちの周りには、ゆっくりとですがデジタルツインの考えはどんどん現実化しています。事実、国土交通省もデジタルツインに注目し、「国土交通データプラットフォーム整備計画」を策定。今回紹介したプラント・デジタルツインの考えを日本全土に広め、交通障害や災害事前対策に活かす機運が高まりつつあります。普段の生活をひっそりと支える巨大な技術基盤として、デジタルツインの確立が急がれます。

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