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[買収スタートアップ全解説]『Fortnite』だけでは語れない。280億ドル超の価値「Epic Games」を作り出す16の企業

Last Updated:
Aug 30, 2021

大人気アクション・バトルロワイヤルゲーム『Fortnite』。

バトルゲームと銘打たれていますが、今や映画や音楽のプロモーションイベントを大々的に開催する場所にもなってきました。たとえば2020年4月、人気ラッパーTravis Scott氏が巨大なアバターとなり、Fortnite世界をライブ会場に一転させました。同時参加者数は1,230万人に上り、Fortnite史上最高の記録となりました。4月末時点では2770万ユーザーが参加し、4,580万回の参加を生み出しています。

その広大な世界観と膨大なユーザー数を理由に、Fortniteは「Metaverse」の代名詞として認知されつつあります。ユーザー自身が様々な娯楽・生活コンテンツを生み出し、バーチャルオブジェクトを交換する経済が生まれ、ユーザー同士がリアルタイムにコミュニケーションが取れる、一つの巨大な仮想世界になるのではと市場で言われています。

Fortniteのユーザー数は2017年の夏から鰻登り。「statista」のデータによると、2020年5月時点で登録ユーザー数は3.5億に上り、もはや一つの国家が誕生していると言って良いでしょう。

Fortniteを開発したのは米国ノースカロライナ州に拠点を持つ「Epic Games」。1991年創業、Fortnite以外に、『Unreal』『Gears of War』『Shadow Complex』『Infinity Blade』を手掛けます。2018年には150億ドルの評価額で12億5,000万ドルを調達、2020年8月には173億ドルの評価額で17.8億ドルの調達に動きました。2021年には287億ドル評価で10億ドルの追加調達に成功しています。

2012年、Tencentが3億3,000万ドルを投じてEpic Gamesの40%相当の株式を取得してから、チャイナマネーを糧に急成長を遂げてきた背景が挙げられます。Tencentは「Paradox」「Activision Blizzard」「Ubisoft」各社の5%、「Frontier Developments」の9%株式を所有し、大阪に開発スタジオを持つ「PlatiumGames」へも出資する中国ゲーム業界の長。中国市場ネットワークとゲームディベロッパー企業を結びつけています。

Epic Gamesは巨額の資金を投じて市場から支援を受けており、Fortniteは株主の期待をそのまま体現させたゲームと言えるでしょう。ただ、ここまでの功績が全てEpic Games社単独の力で構築されているわけではありません。いくつかの買収を繰り返して非連続的な成長が遂げられます。

本記事ではEpic Gamesの買収企業16社を見ながら、同社の未来を紐解いていこうと思います。

ソーシャルコミュニケーションの礎「Houseparty」「Sketchfab」「ArtStation」

Image Credit:Mika Baumeister


2019年6月、Epic Gamesは若者向け動画コミュニケーションプラットフォーム「Houseparty」を買収しました。

2015年に創業されたHousepartyは、動画チャット配信を軸とするソーシャルネットワーク。Fortniteと同様に若い世代から人気を得ています。2020年4月時点では、パンデミックの影響で在宅時間が増えたこともあり、5,000万登録ユーザーを1カ月記録し、驚異的な成長を見せていました

10代のユーザーをターゲットにしており、プライベートで安全なコミュニケーション空間を提供。最大同時接続人数は8名まで。Fortniteの遊び方として、小人数グループで活動することが基本となっているため、Epic GamesはHousepartyのグループユーザー層をFortniteへとシームレスに移行させたいのだと考えられます。

Housepartyの特徴は「共同体験」です。

アプリを開くと友人同士でトリビアクイズができたり、一緒に遊び・話題が尽きないような工夫がされています。友人間コミュニケーションを円滑に進ませる共同体験は、ソーシャルには欠かせない要素でしょう。若者世代の友達同士の動画チャットプラットフォームとしてのベースを築いていたHousepartyにとって、世界的ゲームを共同体験コンテンツの1つとして利用できることほど強力なことはありません。Epic Gamesにしても、Housepartyが囲っていたユーザーベースと、コミュニケーションプラットフォームの仕組みを将来的に連携できるメリットは非常に大きい印象です。

Image Credit:Sketchfab

さて、Housepartyはいわゆるゲームを「遊ぶ側」のソーシャルサービスでしたが、ゲームコンテンツを「制作する側」のコミュニティ形成にもEpic Gamesは力を入れています。

2021年7月には3Dモデル共有プラットフォーム「Sketchfab」の買収に動きました。同プラットフォーム上では3Dモデルの売買が行われており、3Dモデル作品のマーケットプレイスおよびクリエイターコミュニティーとの連携性も高めています。加えて同年4月、3Dクリエイターたちが作品を発表し合うコミュニティー・サービス「ArtStation」を買収。同社はマーケット要素は弱く、作品発表の場となっている純粋なコミュニティーサービスを運営しています。このように、ゲームに関わるあらゆる人が繋がりあい、経済圏としての発展性も持つエコシステム像を描いているのがEpic Gamesと言えます。


次世代ゲームの鍵を握るデジタルヒューマン「3Lateral」「Cubic Motion」「Hyprsense」

Image Credit:Drew Graham​​

Epic Gamesはゲームタイトルだけでなく、3D制作プラットフォーム「Unreal Engine」も開発します。

バーチャルだとは思えないほどの完成度は、Unreal Engine の特徴であるダイナミックレンダリングによってもたらされています。開発者は数百万のポリゴンを持つオブジェクトを投入し、Unreal Engineを使ってオブジェクトに対して複雑な動作を指示したり、画面上でストレスなくレンダリング表示できます。

Unreal Engine上に乗っかってくる重要な技術の1つがデジタルヒューマンでしょう。近年は本技術によってゲームキャラクターが本物の人間のような完成度で動き回るようになりました。デジタルヒューマンの開発は世界的に加速し続けている印象で、Epic Gamesは市場リーダーの座を担いたい考えだと思われます。

事実、2019年1月にはコンピュータ生成による人間キャラクター・デザインを開発するゲームスタジオ「3Lateral」、2020年3月にはフェイシャル・アニメーション技術を開発する「Cubic Motion」、2020年11月にはCubic Motion同様の技術を持つ「Hyprsense」を買収しています。冒頭で述べたMetaverseを構築するためには、よりリアルな表現が求められます。3Lateral・Cubic Motion・Hyprsenseが実現するのがまさにこの点です。

Epic Gamesが開発を進めるデジタルヒューマンに「Siren」が挙げられます。Siren自体は買収前から開発が進められていました。


Sirenは実際の女優の動きや発言をUnreal Engine上のリアルタイム・モーションキャプチャー技術を使って再現されています。現実世界の人物情報をそのままデジタル世界に転送する「デジタルクローン」の確立を目の当たりにできます(動画参照)。

「Epic Gamesは何年も前からデジタルクローン開発へと動いてきた」とCEOのTim Sweeney氏は述べていました。ただ、表情や肌、髪の毛のディテールなどの再現が不完全で、「不気味の谷」を越えるにはまだかなりの道のりがかかるとも踏んでいました。そこで出資元のTencentおよび3LateralとCubic Motionと手を組んで、デジタルヒューマン技術開発と動いてきました。現在はこのチームにHyprsenseも合流しています。

2015-16年時点では、女性の顔に生えている小さな毛などの微細な表現はレンダリングできませんでしたが、GPUの高速化によってこの点も克服。動画に登場する女性の耳や鼻には30万本の小さな毛が生えています。他にも、女性の顔に照らし出される光を眼窩に反映させるスクリーン空間放射や、肌のシェーディングに2層の鏡面反射が使われていたりしています。

Epic Games・3Lateral・Cubic Motion・Hyprsense・Tencentの5社を軸に開発が進められるデジタルヒューマン。物理世界の私たちの動きをほぼリアルタイムに転送できるとすれば、それは新たな「地球」をデジタル世界に誕生させられる可能性を秘めると言えるかもしれません。

デジタルヒューマンはゲーム世界やVRのような市場だけでなく、拡張現実であるARにも応用が効く技術。物理世界とデジタル世界の境界を無くす、ある種の「繋ぎ役」としての存在になるはずです。私たちは次の“地球”を作り出すコア技術の発展とユースケース普及を、Epic Gamesに見ていると言っても過言ではないでしょう。


超リアルな世界を目指して「Quixel」「Twinmotion」「Capturing Reality」

リアリティー要素を強化しているのは、デジタルヒューマンだけではありません。そのほかのバーチャルオブジェクトも本物そっくりに映るようにしています。

2019年11月、Epic Gamesは様々な角度から撮影した被写体データを3Dに落とし込むフォトグラメトリー技術に関するアセットライブラリーを保有する「Quixel」を買収。同社はUnreal Engineを使った短編映画『Rebird』を発表しており、まるで本物の世界かのような映像美は市場から高い評価を受けています。

本買収を通じて、Epic GamesはUnreal Engineを使用している人なら誰でも、無料でQuixelのバンドルツールおよび豊富なライブラリ「Megascans」、マテリアル制作ツール「Mixer」、アセット連携ツール「Bridge」を利用できるようにしました。超高解像度のスキャンを通じて、誰もが世界をより身近に感じられるようになりました。

Quixelの流れを汲む形で2021年3月に買収をしたのが、「Capturing Reality」。両社の技術をベースに、さらなる立体的なゲーム空間を再現したり、現実のオブジェクトを手軽にデジタルへと転換できるようになるでしょう。

2019年5月には「Twinmotion」も買収しています。同社は建築家や造園専門家が3Dモデルをリアルタイムで微調整し、高品質のデータとしてアプットプットできるソフトウェアを提供。デザイナーは気象効果をその場で追加したり、VR作品を編集したりすることもできます。


Fortniteでは建築がコアユースケースとなってくることもあり、よりリアルに建築物を見せることがゲーム世界の発展には不可欠。Unreal Engineの機能強化にも繋がり、Epic Games傘下のゲームタイトルは軒並みリアリティー度を大きく増すはずです。


ハードウェアの壁を超える「Cloudgine」「Agog Labs」「Rad Game Tools」

Image Credit:Erik Mclean​​

ビデオゲームでの体験は、常にゲームハードウェアのスペックとの戦いとも言えるでしょう。PC・コンソール・モバイルのグラフィック処理能力が低ければ、膨大なデータ量が正常に処理することができず、ゲーム体験性に大きく関わります。

「Cloudgine」は世界中のデータセンターを活用して、高い計算能力が必要なゲーム処理に対してクラウドコンピューティング技術を適用。利用デバイスの能力を何倍も飛躍させました。複雑な計算処理をサーバーネットワークを通じて解消。分散型クラウドコンピューティングサービスとしてゲーム開発者がより創造的なタイトルを開発できる基盤を作りました。

Epic Gamesはデジタルヒューマンを高精度に作り出す技術だけでなく、Unreal Engineを問題なくユーザーに届ける必要も負っています。せっかくクオリティーの高い世界観を実現できたとしても、ハイスペックなPCを持っているユーザーしか利用できないとなると、急速に市場パイが縮小してしまいます。そこで2018年1月にCloudgineが買収されたと考えられます

Image Credit:Alex Haney​​

さらに、2019年1月にスクリプトツールメーカー「Agog Labs」を買収。最小限のコード行数で同時実行なゲーム向けスクリプトツールを提供していました。高速処理するためのコーディング技術の強化も怠ってはいません。

Epic Gamesはコーディック技術にも目を向けています。映像処理技術が進むにつれて、膨大な量のゲームデータをリアルタイムに読み込み・出力する必要も出てきます。ここで大きな市場シェアを獲得していたのがゲーム向けビデオ・コーディック「Blink」を開発する「Rad Game Tools」でした。データの圧縮・変換・復元までの一連のプロセスを担うのがコーディックであり、同社ツールは1.5万以上のゲームタイトルに採用されているといいます。Epic Gamesは2021年1月に買収をし、Rad Game Toolsが保有する技術をUnreal Engineへと連携させる動きを見せています。

Metaverseを扱うには、ユーザー同士が平等に評価され、差別のない世界を目指さなければなりません。なかでも端末スペックによって優越が付けられるのがゲーム業界でよくあることですが、こうした差を埋めるための技術の1つがCloudgineやAgog Labsの技術だと言えるかもしれません。物理世界の金銭的およびネットワーク環境の足かせが極力働かないフラットな世界を創り出そうとしているのがEpic Gamesと言えます。


セキュアな環境を目指して「SuperAwesome」「Kamu」

Image Credit:SuperAwesome

HousepartyにしろFortniteにしろ、Epic Gamesが扱うサービスの大半がティーン向け。比較的若年層をユーザーとして扱う場合、米国における子供向けオンラインプライバシー保護法(COPPA)を筆頭に、さまざまな情報匿名性やプライバシーに配慮する必要が出てきます。もちろんコンテンツ面においてもセンシティブなものを配信することは憚れます。

こうした市場課題を解決する、子供向けデジタルコンテンツの最適化を行うサービスに「SuperAwesome」が挙げられます。デジタル広告を出稿する際、子供向けに選ばれた商品しか表示しないように企業は対応を迫られますが、全てのプラットフォームがすぐに基準に準拠した仕組みを構築できるわけではありません。そこでSuperAwesomeを経由することで、若い世代のユーザーにも安心してコンテンツ提供できるデジタル環境を提供できます。

2020年9月、Epic GamesはSuperAwesomeを買収。同社技術を活用することで、将来的にはティーンユーザーが目にするゲーム内コンテンツや広告を制御したりと、若者にとって最適なゲーム環境を実現する動きに出ることでしょう。


Image Credit:Kamu

巨額の調達資金を元手に人気タイトルを買収したEpic Gamesですが、人気タイトルを複数扱い、巨大なユーザー層を抱えるとなるとユーザー管理も重要となってきます。

チートを使って強い武器を手にしたり、レベルを上げることで他ユーザーより優位に立とうとする人は必ず出てきます。よりリアルな世界を求めているEpic Gamesにとって、簡単に他ユーザーより優位に立てる世界観は、相手を単純な方法で蹴落とせる意識を拡散させ、コミュニティ運営上問題となるでしょう。

そこで2018年10月に買収したのが「Kamu」。アンチ・チートサービスを提供するゲームセキュリティ企業です。80以上のゲームを保護しており、世界中で1億人以上のPCプレイヤーにインストールされています。サービス提供価値とてして、アンチ・チートには留まらず、プレイヤー満足度・コミュニティ構築・ゲームセキュリティ・遠隔測定・ゲーム管理まで、一貫したユーザー管理に重点を置いています。

新たなゲームタイトルを買収しつつ、市場を拡大し続けているEpic Gamesにとって、ユーザーの幸福度は大事な問題。Housepartyのようなコミュニケーションツールと高いゲームセキュリティシステムとを両立させることで、対等に楽しめるエコシステム確立を目指しています。


一大ゲーム会社へ「Psyonix」「Tonic Games Group」

Image Credit:Rocket League

競合からのゲームタイトル引き抜きもおこなっています。2019年5月には、車を操作しながらサッカーができる大人気マルチプレイングゲーム『Rocket League』を開発する「Psyonix」を買収。

Rocket Leagueは5,700万ユーザーが遊ぶ大人気作。買収後はEpicの競合に当たる「Valve」が運営するゲーム配信プラットフォーム「Steam」での配信が停止され、Epic Games Storeでの配信がされています。

ただし、Epic Gamesのこうした独占的な動きはユーザーからあまり好感を得られていません。依然としてSteam側ソフトのサポートは続いているようですが、新規ユーザーからすれば利用プラットフォームの選択肢が狭まったのは事実。また、Epic Gamesの背後には中国企業大手のTencentが構えており、昨今の米中政争の煽りも受けて気持ちよく思わない人も多くいます。Appleの独占的なプラットフォーム利用に声を上げたEpic Gamesが、皮肉にも全く同じような動き方をしていることで批判を受けています。

さておき、2021年3月に『Fall Guys』を開発した「Mediatonic」を有するゲームグループ企業「Tonic Games Group」も発表しています。日本でも大人気のタイトルを傘下に収めることになりました。Tonic Games Groupは、「Mediatonic」「Fortitude Games」「The Irregular Corporation」の3社によって成り立つ新興企業。Epic Gamesは同3社のリソースを全て傘下にしたと言っても過言ではありません。

Epic Gamesの先

Image Credit:Joshua Hoehne​​


買収企業を通じたEpic Gamesが提供するゲーム世界は、確実に冒頭で述べたMetaverseの様相を呈し始めています。

たとえば、誰もがクリエイターになり創造的な活動ができる流れが生まれています。YouTuberのMakaMakesは、Fortnite上に多くの巨大な建造物を構築し、公開してきました。よりリアルな建築物を作り出せる技術は、ここまで見てきた買収企業のサービスに基づいていることはもはや言うまでもないでしょう。Fortnite上で様々に試行を凝らした空間を遊ぶことができるようになりました。

個人のクリエイターを支援する流れは私たちがいる物理世界でも起きています。ギグワーカーやフリーランスの台頭はまさに代表的な動きでしょう。同様に、Epic Gamesが開発を進めるUnreal Engineの機能実装および完成度が上がるたびに、こうした個が活躍できる場が増えるはずです。

任天堂『どうぶつの森』で人気キャラクターが高値でメルカリで販売されています。Fortnite上でもバーチャルオブジェクトを売買する流れが加速し、国家規模の経済圏が将来的に生まれることは想像に難くありません。

Travis Scott氏の事例を見れば、多額のお金を稼ぐことだってできるようになります。自分だけの特技や芸を見せ、投げ銭機能を使って売上を立てる循環経済の誕生も、人気ライブ動画アプリ「SHOWROOM」のような機能セットを見ていれば十分に考えられます。

また、著名ゲームタイトルを買収することで、多様な個性や見た目を持ったキャラクターが1つの世界観に集う動きも見られるでしょう。従来、タイトル別にゲーム世界が別れていたことから別タイトルの世界と交流接点もなく、遊び方も異なっていたゲーム市場の常識を、Epic Gamesは打ち崩そうとしているとも考えられます。実際、Fortnite上ではさまざまなキャラクター・コラボレーションが発生しており、新たなスキンが続々と導入されています。

私たちはリアルタイムに世界中のユーザーと、あたかもその場にいるかのような立体感を伴ってバーチャル世界で生活する未来の始まりを見ていると言われても不思議ではないでしょう。Epic Gamesが目指すのは、こうしたリアルタイムでやり取りされ、圧倒的な現実感を持ち、経済が確立した新たな生態系だと言えます。


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