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一歩先の都市生活、距離と時間を越える「アーバナイト」を支える技術

Last Updated:
Aug 4, 2021

「非同期コミュニケーション」と「アーバナイト」

リモートワークが主流となった現代、私たちは地方に住みながら都市オフィスに仮想的に出社したり、日本に住みながらも、海外でビジネスを円滑に進めるスタイルが広がり始めました。

たとえば本社がサンフランシスコにある会社に、東京からZoomを通じてプロダクト開発に参加するようなケースも一般的になりつつあります。オンラインコミュニケーションツールが多数登場するにつれて、企業は人材拠点を世界に広げるようになりました。企業組織形態を分散化する流れが登場するようになりました。

とりわけオフィス環境に関して言えば、ZoomやSkypeのような「同期性」の強いコミュニケーションだけでなく、動画メッセージツール「Loom」のような録画動画を始めとした「非同期コミュニケーション」も広がりました。

Image Credit by Photoholgic

非同期コミュニケーションの最大のメリットは距離と時間を超えたコミュニケーションが可能となる点です。例え地球の裏側にいても、非同期性が高ければ時差を気にすることなく仕事のやり取りが可能となります。

これにより、本社と同じ時間帯に仕事をしていなくとも、そして本社へ実際に出向かなくても働ける「バーチャル出社」ができるようになりました。距離や時間を超えると物理世界における生活拠点の選択肢を広げられます。先述したような、サンフランシスコの企業に出社して1日の大半の時間を過ごしながら、生活は東京で送るようなスタイルに繋がる具合です。

名目上は都市部に身を置いて働きながらも、実態は全く別の場所に身体を置くような生活が徐々に浸透し始めてきたと感じます。大半の時間をとある都市での企業活動に費やしながら、生活基盤は別都市におく。テクノロジーによって生活基盤を仮想的に増やせるようになった現代、そして未来の都市生活者をここでは「アーバナイト(Urbanite)」と呼称します。

従来、どこか特定都市に拠点をおき、かつ実態上もその場所に身を置いていた時代から、2つ以上の都市に跨がった生活を行うスタイルが採用され始めました。たとえば東京にいながらも、世界有数のスタートアップ都市「サンフランシスコ」、金融都市「ニューヨーク」、新興都市である「ラゴス(ナイジェリア)」や「バンガロール(インド)」など、複数の都市の良さを汲み取った生活を送れるようになりました。起業家、資産家、そして新興国の事業者といった、自分が持つ様々な分人的な側面を、複数拠点を持つことで満足させることができます。ユーザーとしての私たち側からすると、柔軟に複数都市のメリットを享受でき、都市側からすると、世界各国にバーチャル的な市民を広げることでリーチを増やすことができるようになりつつあります。

XRが加速させる「アーバナイト」の存在拡張

Image Credit by Martin Adams

時代が進むにつれ、アーバナイトらは数と、その存在を各都市に拡張させるでしょう。この流れを加速度的に上げるのが前章で紹介した次世代・非同期コミュニケーションです。

フリーランスのように複数企業に勤め、多拠点に渡って頻繁に誰かとコミュニケーションを取る必要がある場合、特定の会議などに時間をロックアップされると柔軟性が失われてしまいます。それでは結局1つの都市に住んだ方が効率的、という結果が導き出されてしまいます。

かといってメールやSlack上のメッセージを確認するだけでは物足りなさを感じることもあるかと思います。そこで非同期性の価値を高める鍵となるのがXR。ユーザーの空間情報を、まるでその場にいるかのように相手に伝える技術は、従来の非同期コミュニケーション手法を飛躍的に進化させるでしょう。情報やノウハウなどを、時間を超えてそっくりそのまま共有・継承することを可能とするのがXRの強みです。

XRを基にしたコミュニケーションを語る上で、最も想像しやすいのがホログラムでしょう。最近ではホログラム志向のユースケースを徐々に見かけるようになりました。

2017年フランス大統領選、「Adrenaline Studio」が提供するホログラム・サービスによって、候補者の姿を複数の会場に映し出すパフォーマンスがなされました。

同スタジオが提供する仕組みは次のようなもの。まずレーザービームを反射鏡で2つのビームに分け、一方のビームを特殊なプレートに向けます。もう一方のビームは再現したい対象物や人物を照らした後、同じ特殊なプレートに反射。感光面(写真プレートやテレビカメラ)には、2本の光の干渉を利用して3D情報が記録されます。こうして単純に反射しているだけなのに錯覚を起こさせるとのこと。写真のような形や色を記録するだけでなく、体積情報を記録することで3Dの錯覚を起こさせます。

Adrenaline Studioの仕組みは大規模なものであり、全く同じものが私たちの日常に再現されるのはまだ遠い未来のことでしょうが、AR/MRグラス端末上で近い体験の再現は可能でしょう。より立体的に情報を伝えることができれば、同じ時間帯に合わせる必要がなくなり、「アーバナイトの存在拡張」に繋がると考えます。

ここまで説明してきたように、今や私たちがどの都市に拠点を置いているのかを定義しづらくなっています。都市生活は複数にまたがり、一都市に生活拠点が制限されない形になりつつあります。XR技術が進展、そして普及するにつれて今以上に非同期な働き方が増え、生活拠点の多様化に繋がる未来がやってくると考えられます。ゆくゆくは仕事だけでなく、遠隔から各都市に「居住」するかのような都市生活体験も実装されると考えます。ホログラムを活用した新たな都市生活者間のコミュニケーションも切り拓かれるでしょう。

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